CASE事例紹介
不動産相続では、思わぬ相続
(争族・争続)がつきものです。
事前に事例を知ることで、
対策することができます。
不動産相続事例
「自筆証書遺言と公正証書遺言の違い」
今回ご相談に来られた60代のF様は、先月お母様を亡くされました。お父様は3年前にすでに他界されています。
F様は長女で兄1人と弟2人がおり、皆家庭を持って別々に暮らしています。昔からあまり仲が良いとは言えず、実家を出てからは4人そろって会うことはほとんどありませんでした。亡くなったお母様の資産は、預貯金600万円と不動産5500万円になります。
F様のお母様がお亡くなりになってから数日後、長男であるK様から「母が書いた遺言書があったので、裁判所に来てほしい」という連絡がありました。そこで遺言書を見てF様は大変驚きました。
自筆の遺言書が見つかった場合、発見した相続人は遺言書を家庭裁判所に提出し、「遺言書の検認」の手続きをする必要があります。封印されている遺言書は勝手に開封をしてはならず、裁判所に検認を申し立て、相続人の立ち合いのもと家庭裁判所で開封し内容を確認することになっています。
お父様が亡くなられた時も遺言書があり検認を行ったので、今回も同様と思いF様は裁判所に向かいました。そして裁判所で出された遺言書には「現金は子供4人で均等に分ける」「不動産は長男と次男だけで分ける」と書かれていました。
この内容は長男のK様と次男にとって明らかに都合がよいものになっているため、F様は納得がいきませんでした。しかも、F様のお母様は認知症気味でしたので、この遺言書が本当にお母様の意思かどうか疑わしいと感じられたのです。F様は、長男のK様が、自分に都合のよい内容を、認知症気味だった母に無理やり書かせたのでないかと考えました。
遺言書を書くのは多くの場合が高齢者ですので、その中には認知症の疑いがある方や、判断能力が低下している方もいらっしゃいます。遺言書が有効と判断されるためには、書いた本人が遺言を残す時点で「遺言能力」を備えている必要があります。「遺言能力」とは、遺言の内容を理解し、その結果どうなるかも判断できる能力のことです。この遺言能力がない者が作成した遺言書は、無効となってしまいます。さて、今回のFさんの場合はどうでしょうか。
F様のお母様が残された遺言書は自筆でした。自筆の遺言書は一人で書くことができますので、それを書いた時点で認知症だったのか、また誰かに書かされたのかなどを立証できる人がいないため、遺言書が有効かどうか判断することが難しくなります。納得のいかないF様は公的に判断してもらうほかに方法はないと思い、裁判を起こすことに決めました。
このような自筆証書遺言が引き起こすトラブルというのは珍しいことではありません。このようなトラブルを避けるためにも、遺言書は公正証書遺言を作成しておくことをおすすめします。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に書いてもらう遺言のことをいいます。証人が2人以上立ち合い、遺言者が口で伝えた内容を公証人が筆記し作成します。遺言書を残す場合は、自分の判断能力に少しでも不安がある場合は公正証書遺言で作成したほうが良いでしょう。公証人と証人2名がいますので、遺言を残した時点で遺言能力があったかどうかなどの争いを避けられる可能性が高くなります。
また自筆証書遺言は遺言能力があるかないかの問題以外にも、日付がない・押印がないなど様々な理由で無効になってしまう場合も多くあります。公正証書遺言は法律のプロが作成するため、このような形式の不備で無効になるといった心配もありません。
今回F様のケースのように、自筆の遺言書というのは実はとてもトラブルを起こしやすいものなのです。書いたのは本人なのか?誰かに書かされたのではないか?判断能力はあったのか?など、信憑性に欠けるため、争いに発展しかねません。手軽に自分一人で作成できるというメリットはありますが、その分内容の不備があり無効になるといったことも珍しいことではありません。公正証書遺言であれば絶対に無効にならない、トラブルが起こらないというわけではありませんが、このようなことを避けられる可能性は自筆証書遺言に比べれば、はるかに高いといえます。
いざ遺言書を書こうと思っても、どのように書くのか、どのような種類のものがあるのかを知らない人は多いと思います。せっかく遺言書を残しても、その効力が認められなかったり、親族同士の争いが起きてしまったら元も子もありません。出来る限り安全で確実な遺言書を作ることが大切です。